事業承継の実務・役員退職金

 

 

 

 さて前回までは、事業承継を行うにあたっての「環境整備」や「心構え」などについて述べてきました。

 

 

 では具体的には、事業承継とはどのような手続きを経て行われるのでしょうか?

 

 

 これは言うまでもなく、「先代経営者の代表取締役退任」と、「後継者の代表取締役就任」という手続きによって成立します。

 

 

 ただし一口に「退任」と言っても、退いた先代が、その後会社でどのような立場に就き、どの程度経営に関与するかにより、退任後の状況が異なってきます。

 

 

パターンとしては、

 


 @代表取締役及び取締役を退任し、完全に会社を退職する

   A代表取締役及び取締役を退任し、非常勤の「相談役」「顧問」になる 

   B代表取締役は退任するが、代表権のない(平)取締役に留まる
  

 

が挙げられます。

 


 そして退いた先代には、退任に併せて「役員退任慰労金」を支給するのが一般的です。支給の手続きは株主総会の決議によりますが、重要なのは「役員退任慰労金規程」が整備されているか、ということです。規程がなければもちろん退職金を支給することが出来ませんし、古い規程であれば今の会社の実情に合わせて改定する必要が生じることでしょう。

 


 さらに、「支給方法をどうするか?」という問題があります。創業社長への退任慰労金は、一般的には多額になります。一括支給するだけの自己資金が会社に留保されていれば問題はありませんが、財源がない場合は金融機関から借入をしたり、場合によっては分割支給ということも検討する必要があります。

 


 役員退職金の支給は、会社のキャッシュフローに直接影響を与えます。退職金の支給額や支払方法、退任後の報酬については、先代経営者と後継者との間で十分に話し合い、予め合意をしておきましょう。

 

 

→次は、事業承継の実務・自社株式

 

 

 

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役員退職金の税務(1)〜みなし退職〜

vol.163(since 07/01/07〜) 

18/01/19

 

 

以前の記事で、役員の退任及び役員退職慰労金の支給について、

 

 

一口に「退任」と言っても、退いた先代が、その後会社でどのような立場に就き、どの程度経営に関与するかにより、退任後の状況が異なってきます。
パターンとしては、
 @代表取締役及び取締役を退任し、完全に会社を退職する
 A代表取締役及び取締役を退任し、非常勤の「相談役」「顧問」になる 
 B代表取締役は退任するが、代表権のない(平)取締役に留まる
が挙げられます。
 そして退いた先代には、退任に併せて「役員退任慰労金」を支給するのが一般的です。

 

 

と書きました。

 

 

さて、この退任のパターンですが、@Aは代表取締役退任と同時に取締役を退任しているのに対して、Bは平取締役に留まっています。

 


ここで問題になるのが、役員退職金の支給です。
いうまでもなく、退職金は「退職」を原因として支給します。役員の「退職」とは、取締役や監査役であった者がその地位を退くことをいい、登記を伴うことになります(@Aのパターン)。

 

 


これに対し、代表取締役は退任するが引き続き取締役にとどまる、というパターン(Bのケース)の場合、登記上取締役としての地位に変更はないので、取締役を「退職」したことにはなりません。

 


役員退職金を支給するにあたって、@Aのパターンは、役員を退任したことに伴い退職金を支給するのだから問題はありません。しかしBのパターンは、取締役を退任していないのだから退職金を支給することはできないのではないか、との疑問が生じます。

 


中小企業で、前社長が代表取締役を退任後、しばらくの間平取締役に留まる、というのはよくある話です。中小企業の場合、社長=会社です。前社長が退任と同時に完全引退するというのでは、取引先や金融機関に不安を与え、退任後の会社の経営に支障をきたすかもしれません。そこで代表取締役退任後も、「会長」等の名称でしばらくの間平取締役に留まる、というのは一般的に行われています。

 


このように、同じ役員の地位にありながら、その職務や責任が大きく変わることを「分掌変更」といいます。そして代表取締役が、代表を辞して平取締役になり、以後日常業務に関与しなくなるような場合は、この「分掌変更」に該当します。

 


そうすると、「分掌変更」により役員の職務や責任が大きく変更するような場合は、実質的には役員を退職したのと同様の事情にあると考えられます。中小企業では、この「分掌変更」を原因として役員退職金を支給するケースがしばしば見られます。

 


仮に@Aのパターンを「完全退職」、Bのパターンを「みなし退職」と呼びます。どちらのケースでも、役員退職金を支給することは慣行として行われています。

 


ただし、「みなし退職した役員に対して役員退職金を支給するためには絶対的な条件があります。まず、役員退職慰労金規程に、「みなし退職」した場合に役員退職金を支給することができる旨の支給条項が定められていること。これがなければそもそも支給する根拠がありません。

 

次に、みなし退職」した後は会社の経営に関与しないこと。分掌変更は「実質的な退職」なので、単に代表の登記のみを抹消しただけで事実上の経営権は変わらない、というのでは退職したことにはなりません。

 


このみなし退職」を原因として役員退職金を支給した結果、課税庁側が「事実上退職していない」などとして役員退職金を損金として認めず、裁判にまでもつれ込むケースが多々あります。役員退職金は、その支給額が多額になるので税務調査の際しばしば論点になりますが、「みなし退職」の場合必ずその実態を確認されることになるでしょう。

 

 

役員退職金を支給する際は、税理士等の専門家のアドバイスを得ながら慎重に検討することをお勧めします。

 

 

 

 

 

→カテゴリ:実務編・役員退職金

 

 

 

 

 

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役員退職金の税務(2)〜続・みなし退職〜

vol.164(since 07/01/07〜) 

18/02/13

 

 

前回に引き続き、みなし退職」に関する記事を続けます。

 

 

みなし退職」に関しては、

 

 

・代表取締役が、代表を辞して平取締役になり、以後日常業務に関与しなくなるような場合は「分掌変更」に該当します。

・「分掌変更」により役員の職務や責任が大きく変更するような場合は、実質的には役員を退職したのと同様の事情にあると考えられます。中小企業では、この「分掌変更」を原因として役員退職金を支給するケースがしばしば見られます。

・「みなし退職」を原因として役員退職金を支給した結果、課税庁側が「事実上退職していない」などとして役員退職金を損金として認めず、裁判にまでもつれ込むケースが多々あります。

 

 

と書きました。

 

 

では、みなし退職」による役員退職金の支給が税務上認められるための、具体的な「要件」はあるのでしょうか?

 

 

巷でよく言われるのが、次の場合は「みなし退職」として認められる、というものです。

 

 

@常勤役員が、非常勤役員となる
A取締役が、監査役になる
B分掌変更後の役員の給与が激減(おおむね50%以上の減少)する

 

 

この根拠は、法人税法基本通達にあります。「基本通達」は税法を適用するにあたり税務職員が指針とすべき事項であり、国税庁長官から税務職員への指示文書にあたります。

 

 

上記@ABは「役員の分掌変更等の場合の退職給与」というタイトルの通達に記載されていて、このような場合に支給される給与は退職給与として取り扱うことができる、と記載されています。

 

 

しかし、ここに落とし穴があります。上記の文章はあくまでも単なる「例示」であり、これにあてはまれば必ず認められるという「条件」ではない、ということです。

 

 

この通達の本文には、「その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合」とあります。

 

 

つまり、形式的に@ABのような行為を行ったとしても、「実質的に退職したのと同様の事情」になければ、退職給与として認められない、ということです。

 

 

では「実質的に退職したのと同様の事情」とは具体的にはどのような状況を指すのか?それはケースバイケースであり、各会社のその時の実情に応じて判断することになりますが、現代表者がいなくなったらどうするか?ということを考えればわかりやすいと思います。社内的な役割の変更はもちろんのこと、取引先や金融機関などとの関係も変化することになるでしょう。

 

 

「みなし退職」は事実上の退職であり、それゆえ前代表者は「みなし退職」後会社の経営に関与しない。これが退職給与支給の大前提であり、その結果として例えば@ABのようなこととなることがある。この順序を間違えないようにしてください。

 

 

 

→カテゴリ:実務編・役員退職金

 

 

  

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役員退職金の税務(3)〜損金算入時期〜

vol.165(since 07/01/07〜) 

18/03/15

 

 

前々回前回と、役員退職金の「みなし退職」に関する記事を書きました。

要約すると、

 

 

・代表取締役が、代表を辞して平取締役になり、以後日常業務に関与しなくなるような場合は「分掌変更」に該当します。

「分掌変更」により役員の職務や責任が大きく変更するような場合は、実質的には役員を退職したのと同様の事情にあると考えられます。中小企業では、この「分掌変更」を原因として役員退職金を支給するケースがしばしば見られます。

法人税法基本通達に掲げている3つの事例は単なる「例示」であり、これにあてはまれば退職給与として必ず認められるという「条件」ではありません。

 

 

となります。

 

 

さて、ここからは役員退職金のその他のテーマに触れつつ、「みなし退職」との関係を整理していきます。

 

 

まずは「損金算入時期」です。「損金算入」とは、「税務上の費用として計上」することを言います。

 

 

一般的に、株式会社の役員退職金の支給の手順は

 

株主総会で、支給すること(及び支給額)を決議

          ↓

取締役会等で、(支給額)・支給時期・支給方法等を決議

 

となります。

 

 

では、役員退職給与の損金算入時期はいつなのでしょうか?

 

 

法人税基本通達には、その時期について「株主総会の決議等により、その額が具体的に確定した日の属する事業年度とする(=決議日基準)」とあります。

 


ところが、この通達にはただし書きがあって、

 

 

「法人がその退職給与を支払った日の属する事業年度において、その支払った金額につき損金経理をした場合は、これを認める(=支給日基準)」

 

 

ともありますexclamation&question

 

 

具体的なケースで確認しましょう。

 


3月決算法人(当期末:平成30年3月31日)が、退任役員に対して退職金を支払います。

 

 

イ 株主総会決議日 2月28日
  実際の支給日  3月31日(一括払)

 

 

このケースでは、決議日(当期)と支給日(当期)が同じ事業年度なので、役員退職金は当期の損金に算入されます。

 

 

ロ 株主総会決議日 2月28日
  実際の支給日  4月 1日(一括払)

 

 

このケースでは、決議日(当期)と支給日(翌期)が異なる事業年度となります。この場合、

 

 

@決議日基準:当期の損金に算入。未払金として計上することになります。
A支給日基準:翌期の損金に算入。当期は特に会計処理せず、翌期支払った日に費用として計上します。

 

 

どちらの処理も認められることになります。ただし、原則は@と考えておいてください。

 

 

上記イロは、支給日が1日ずれるだけで退職金の損金算入時期が1年間ずれてしまう可能性がある、という例です。役員退職金はその支給額が多額で、会社決算に大きな影響を与えます。退職金の決議日と支給日を決める際は十分注意しましょう。

 

 

ところで前回、前々回では「完全退職」「みなし退職」に分けて説明してきましたが、上記@Aの処理はどちらのケースでも適用可能なのでしょうか?

 

 

実は、「みなし退職」の場合には問題が生じることがあります(これについてはまた後日書きます)。
しかし上のイロのように、支給方法が「一括払」で、決議日から支給日までの期間が1カ月程度であれば、「みなし退職」であっても適用可能と考えられます。

 

 

では、支給方法が「分割払」の場合はどうなるのでしょうか?
これは次回のテーマとします。

 

 

 

→カテゴリ:実務編・役員退職金

 

 

  

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役員退職金の税務(4)〜分割払〜

vol.166(since 07/01/07〜) 

18/04/09

 

 

前回は、「役員退職給与の損金算入時期」というテーマで

 

 

@原則:株主総会の決議等により、その額が具体的に確定した日(=決議日基準
A特例:退職給与を支払った日(=支給日基準

 

 

と書きました。

 

 

そしてこの選択は、支給方法が「一括払」で、決議日から支給日までの期間が1カ月程度であれば、「みなし退職」であっても選択可能と思われます。

 

 

とも書きました。

 

 

では、「みなし退職」で「分割払」の場合はどうなのでしょう?
その前に、そもそも役員退職金の分割払いは認められるのでしょうか?

 

 

所得税基本通達には、

 


「退職手当等(≒退職金)とは、退職したことに起因して一時に支払われることとなった給与をいう」

 

とあります。
そうすると、退職金は「一括払」でなければならない、となりそうです。

 

 

その一方で、法人税基本通達には、

 

「退職一時金の分割払いについては、その未払部分を含めて損金の額に算入することができる」

 

とあるほか、その他にも分割払を認めている部分があります。

 

 

分割払いを認める理由として、「法人の資金繰りの都合」が挙げられています。
役員退職金はその支給額が高額になることが多く、資金ストックの乏しい中小企業の場合、一時払が困難なケースが考えられます。
また退任役員が同族関係者の場合、第三者と異なり「同族関係者だから待ってもらえる」という事情もあるようです。

 

 

以上の通り、実務上「合理的な理由」がある限り、役員退職金の分割払は認められています。
ただし株主総会等で、「退職金の総額」「分割回数」「支給時期・期間」「各回に支給する金額」を予め定めておく必要があります。そうしないと、役員報酬や役員賞与との区別がつかず、退職金としての損金性に疑問が生じることになります。

 

 

ここで話を戻します。
分割払の場合の役員退職金の損金算入時期を考えてみましょう。

 

 

前回イロに続いてのケーススタディです。(当期末:平成30年3月31日 完全退職とします)

 

 

ハ 株主総会決議日 2月28日 
  支給総額    1億円
  支給方法    分割払
  支給時期及び支給額  
   平成30年3月1日 3000万円
   平成31年3月1日 3000万円
   平成32年3月1日 4000万円

 

 

そうすると、損金算入時期は、以下の2通りが考えられます。
 

 

@決議日基準:当期(平成30年3月期)の損金に算入。決議額1億円を未払金として計上することになります。
A支給日基準:各支給期の損金に算入。具体的には

  平成30年3月期 3000万円
  平成31年3月期 3000万円
  平成32年3月期 4000万円

 を、役員退職金として各期の費用として計上し、損金算入します。
 

 

以上の通り、@とAでは、会社の各年度の最終利益は大きく異なることになります。
損金計上時期の決定にあたっては、今後数年間の会社の業績見通し、資金繰り計画、納税計画、金融機関との関係など、諸事情を勘案して判断しましょう。


さて、ここまでは前置きした通り「完全退職」の場合に認められる処理です。
ではみなし退職」で「分割払」 の場合、この処理は認められるのでしょうか?
いよいよこの連載の本丸ですが、続きは次回へ送ります。

 

 

 

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役員退職金の税務(5)〜分割払・みなし退職〜

vol.167(since 07/01/07〜) 

18/05/07

 

 

前回は、「退職金の分割払」というテーマで

 

 

・実務上、「合理的な理由」がある限り、役員退職金の分割払は認められている

・その損金算入時期は、

@決議日基準:決議日の属する事業年度の損金に算入(未支給分は未払金計上)
A支給日基準:支給の都度、各支給期の損金に算入

 

 

と書きました。しかし、その前提として

 

 

これは前置きした通り「完全退職」の場合に認められる処理です。
ではみなし退職」で「分割払」 の場合、この処理は認められるのでしょうか?

 

 

と書きました。
いよいよこの連載の本丸です。

 


まず、「みなし退職」の場合、退職金の未払金計上は認められるのでしょうか?

 

 

法人税基本通達では、「みなし退職」の場合、

 

 

「退職給与とされるものは、法人が実際に支払ったものに限られ、原則として未払金等に計上したものは含まれない

 

 

としています。

 

 

 つまり前回の記事で、「退職一時金の分割払いについては、その未払部分を含めて損金の額に算入することができる」と書きましたが、これは完全退職」の場合に認められるのであって、「みなし退職」の場合この処理は認められない、ということになります。

 

 

 そうすると、「みなし退職」の場合、退職金の分割払は認められない、ということになるのでしょうか?

 

 

ここで、冒頭に戻りましょう。役員退職金の損金算入時期は、

 

@決議日基準:決議日の属する事業年度の損金に算入(未支給分は未払金計上)
A支給日基準:支給の都度、各支給期の損金に算入

 

の基準があるとお伝えしました。

 

 

みなし退職」の場合、退職金の未払計上は認められないので、@の決議日基準によると未払部分は否認されることになります。
しかしAの支給日基準により、その支払の都度支払った金額を損金に算入する処理は認められます。

 

 

ケーススタディで確認しましょう。
前回ハと同様のケースで、条件を変更します。前回は「完全退職」でしたが、今回は「みなし退職」とします。(当期末:平成30年3月31日)
 


ニ 株主総会決議日 2月28日 
  支給総額    1億円
  支給方法    分割払
  支給時期及び支給額  
   平成30年3月1日 3000万円
   平成31年3月1日 3000万円
   平成32年3月1日 4000万円

 
そうすると、損金算入時期は、

 
@決議日基準当期(平成30年3月期)に支払った3000万円のみが当期の損金に算入され、平成31年に支払う3000万円及び平成32年に支払う4000万円は各事業年度の損金に算入されません。

 

A支給日基準:各支給期の損金に算入。具体的には

  平成30年3月期 3000万円
  平成31年3月期 3000万円
  平成32年3月期 4000万円

 を、役員退職金として各期の費用に計上し、損金算入します。

 

 

みなし退職」で「分割払」の場合、なぜ決議日基準での未払金計上は認められず、支給日基準では各期での損金算入が認められるのか?判然としない点はあります。

 

 

しかし、

 

 

・役員退職金の支給事由は「完全退職」が原則で、「みなし退職」は例外である
・その支給方法は「一括払」が原則で、「分割払」は例外である

 

 

と整理すると、「みなし退職」で「分割払」は例外中の例外、ということになります。
損金算入に一定の制限が生じるのは当然かもしれません。

 

 

 

→カテゴリ:実務編・役員退職金

 

 

  

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