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さて、事業承継において退職金の支払いと同様に、いやそれ以上に重要なのが、「先代社長が保有している自社株式を、どのようにして後継者に譲り渡すか」ということです。
「オーナー社長」と言う名の通り、多くの中小企業は社長(及びその親族)がその会社の株式の大部分を保有しています。たとえ代表取締役を退任しても、株式を保有している間、先代社長はその会社の経営全般の最終決定権を持ち続けることになります。
自社株式は事業承継とともに後継者に譲り渡し、後継者がその会社の新たなオーナーとなる、というのが理想的な事業承継の方法です。
ところが、ここで厄介な問題が生じます。 「その自社株式は、いくらで譲り渡したらよいか」ということです。自社株式の値段を決める場合には、通常「税務上の評価額」がひとつの基準となりますが、この「評価額」が思わぬ高値になることがあるのです。
オーナー社長が会社設立時に出資した100万円(の自社株式)の評価額が、事業承継の際には10倍、20倍になっている、というケースは珍しくありません。後継者にその評価額で買い取ってもらえば問題はありませんが、値段によっては後継者が取得資金を用意できないこともあります。
また後継者が親族である場合は、株式を贈与するという方法がありますが、一時に贈与すると多額の贈与税がかかるケースがあります。
自社株式をスムースに譲り渡すためには、①株価が下がったタイミングで譲渡(または贈与)する②相続時精算課税制度を利用して贈与する③長期的に連年贈与する、などの方法がありますが、どの方法もメリット・デメリットがあり、またいずれの方法も簡単ではありません。
そこで平成21年度の税制改正で創設された、いわゆる事業承継税制(相続税・贈与税の納税猶予)を利用するという方法があります。まだできたばかりの制度で実績がなく、また適用要件等はかなり複雑ですが、身内の後継者が確実に決まっている場合、スムースな事業承継に大きな効果を生じるケースがあります。
以前の記事でも触れましたが、社長は自分の会社の値段が今いくらなのかを知る必要があります。その自ら築いた「自社株式」という財産を、後継者にスムースに引き渡すことによって事業承継は完成します。自社株式の譲り渡しは、後継者が決まった時点で計画を策定し、時間をかけて実行する必要があります。
→次は、事業承継の実務・個人保証など
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vol.135(since 07/01/07〜)
15/09/10
以前の記事で、「なぜ今、自社株式の処分のタイミングなのか?」というタイトルで、
「自社株式の価額=相続税評価額が、今年は上昇に転じた」
と記載しました。
この記事を書いたのは2014年8月。その後2015年になって、日経平均株価は一時2万円を突破しました。このところ株価は激しく乱高下していますが、この傾向(=自社株式の価額が高くなる)は、続いていると言えます。
さて、同族会社の株式を所有しているのは、必ずしもオーナー社長だけとは限りません。会社と関係がない「社長の子」「社長の兄弟」、また「幹部従業員」などが「少数株主」として株式を所有しているケースは多くあります。
そして、この「少数株主が所有する株式をどう処理するか?」ということも、重要な自社株対策のひとつです。
少数株主である「子」や「兄弟」の中には、会社の経営に全く関っていない人も多く、これらの人はおおむね会社の経営に無関心(=経営に口出ししない)です。
なので、これらの「子」や「兄弟」が株式を所有している間は、よほどの仲違いがない限り、経営への影響を心配することはありません。
しかし、この少数株主に相続が発生すると、株式の所有者は「子→孫」「兄弟→甥、姪」へと移っていきます。
ところで相続の際は、非上場会社の株式の価額は相続税評価額で評価します。少数株主の場合、「配当還元方式」という評価方法で評価することが多く、その場合の評価額は一般的にはかなり低額になります。
ところが、その株式を「原則的評価方式」により評価しなければならない場合は注意が必要です。
「原則的評価方式」により評価した株価が予想以上に高額であるような場合、相続人は初めてその株式の「価値」を知ることになります。社長と株主との血縁関係が遠くなっていくと、新たな少数株主の中には、社長に対し、その株式の買取を要求するような人が出てこないとも限りません。
また、幹部従業員が所有する株式は、その従業員の退職を機に買い取るのが一般的です。
その際、株式の買取価額をいくらにするのか?非上場株式の価額に相場はないので、税務上の価額や従業員の貢献度等を考慮して決定することになります。
ところで非上場株式を売買する場合は、その課税関係に十分注意する必要があります。
その売買価額や、譲受人(社長が買い取るのか、会社が買い取るのか)によっては、売主である少数株主、買主である社長や会社、更には他の株主にまで思わぬ税金が生じることがあるからです。
少数株主への対策はついつい後回しにしがちですが、上で述べたように後々思わぬトラブルが生じることがあります。株主の分散は、相続税対策に役立つこともある一方で、過度の分散は会社の経営の障害にもなりかねません。
オーナー社長には、現時点での株主名簿を確認し、少数株主の所有する株式をどうするか?購入等の対策をとる必要がないかどうか、検討することをお勧めします。
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vol.160(since 07/01/07〜)
17/10/10
以前の記事でも書いたように、取引相場のない株式(=非上場株式)の評価方法は、
①国税庁より随時発表される同業他社の平均値と比較して計算(類似業種比準価額)
②会社の純資産から計算(純資産価額)
この①と②によって計算した価額をミックスして価額を決定します(ミックスする割合は会社の規模により異なる)。
このうち②の純資産価額は、会社が所有している財産を「帳簿価額」ではなく「相続税評価額」で再評価して計算します。
例えば、会社が帳簿価額1000万円の土地(200㎡)を所有していたとします。その土地の路線価は1㎡あたり30万円です。
そうすると、この土地の相続税評価額は
30万円/㎡×200㎡=6000万円
となります。
このように、各財産の「相続税評価額」を集計し、算出したのが「純資産価額」です。
この「純資産価額」をベースとして株価を計算するのですが、注意しなければならないことがあります。それは、
「この価額は、相続・贈与でのみ使用できる価額であって、譲渡の価額としては使用できない」
ということです。
上記の計算式は、あくまでも「相続税評価額」を算出するためのものです。つまりこの計算による株価は、相続税・贈与税を計算するためのもの、ということになります。
では、自社株式を売買するときの価額は、どのように計算すればよいのでしょうか?
ひとことで言うと、売買の価額は「時価」を用います。
「時価」とは、「純然たる第三者間において、種々の経済性を考慮して決定された価額」とされています。
さて、ここで大きな問題が立ちはだかります。自社株式の売買は、通常、「純然たる第三者間」では行われないということです。
上場株式であれば、投資家が常に取引を行い、その価額は日々変動します。
例えば、昨日100円で購入したA株相場が急上昇し、今日は1000円で購入した、などということもあり得ます。この場合、昨日100円で購入したA株も、今日1000円で購入したA株もそれぞれ「時価」で取得したことになります。
ところが、中小企業の株式はほとんどが非上場株式で、所有者は大多数が同族関係者、ということになります。相場などあるはずもありません。そうすると、いくらで売買すればよいのか?という問題が生じます。
「いくらでもいいじゃん」と思うかもしれませんが、その価額が「時価」ではない場合、課税上の問題が生じます。
では、譲渡の場合の自社株式の価額はどのように算定するのか?また、時価で譲渡しなかった場合の課税上の問題と何か?次回ご説明します。
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vol.161(since 07/01/07〜)
17/11/08
さて前回の記事では、
・相続税評価額によって計算した株価は、「相続・贈与でのみ通用する価額」であって、「譲渡の価額」ではない
・自社株式を売買するときの価額は、「時価」を用いる
ことを書きました。
では、譲渡の場合の自社株式の価額=時価はどのように算定するのでしょうか?
前回の記事で述べたとおり、「時価」とは、「純然たる第三者間において、種々の経済性を考慮して決定された価額」とされています。
そうすると、時価は一つとは限りません。譲渡するときのお互いの状況、時期、相手によって、同じものでも異なる値段が付くことは十分にあり得ます。同時に、時価の算定方法も一つではない、ということになります。
その算定方法のうちの一つが「相続税評価額を計算する方法を準用する」という方法です。
具体的には、相続税評価額を計算するルールのうち、
・純資産価額の計算上、土地・上場有価証券はその譲渡の時の価額で計算する
・純資産価額の計算上、評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しない
・株式譲渡者が中心的な同族株主に該当する場合は、会社の規模を常に「小会社」として計算する
等々、細かなルール変更を行ったうえで計算した金額を時価としてよい、とされています(ここでは「税務上の時価」と言います)。
では、なぜ自社株式の譲渡は時価で行わなければいけないのでしょうか?
時価より「著しく低い価額」で譲渡を行った場合、時価と実際の対価との差額は贈与があったものとされ、買主に贈与税が課されるためです。
例えば、こんなケースです。
Aさんは所有する自社株式1000株を、Bさんに譲渡しました。
自社株式の「税務上の時価」は1株1万円でしたが、実際は1株5千円で譲渡しました(便宜上、1株5000円は「著しく低い価額」であるものとします)。
そうすると、AさんはBさんに、時価1000万円(1万円/株×1000株)の自社株式を、実際は500万円(5千円×1000株)で譲渡したことになります。
Bさんからすると、Aさんから500万円(時価1000万円−譲渡価額500万円)の利益を受けたことになります。
この利益が、BさんがAさんから贈与によって取得したものとみなされ、Bさんは500万円に対する贈与税を支払うことになるのです。
このような課税を避けるためには、事前に「税務上の時価」を算定し、譲渡価額が「著しく低い価額」にならないかどうか判断することが重要となります。
では、「著しく低い価額」とはいくらなのか?
これについては様々な判例・裁決例が出ています。一定の考え方はありますが、基本的にはケースバイケースで判断することになります。
自社株式の売買をする際は時価で行うべきこと、時価で行わなかった場合は課税関係が生じる恐れがあることをご留意ください。
時価の算定については、事前に税理士に相談することをお勧めします。
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vol.177(since 07/01/07〜)
19/03/05
上場企業の多くは「従業員持株会」という組織を作っています。
その一般的な形態は、
・従業員は持株会に加入し、持株会に一定の金銭を拠出する
・持株会は、企業の自社株式を一定数取得する
というものです。
従業員は、持株会を通じて間接的に株式を保有することになります(税務上は、直接保有しているのと同じ取扱いとなる) 。
これにより従業員は、株式の配当を受けられます。また将来株価が上昇すれば、株式を売却することによる利益が得られます。
企業としては、持株会という安定株主が得られ、従業員のモチベーションアップに役立ちます。
この従業員持株会を、非上場会社が導入するケースがあります。
その形態や目的は上場企業の場合と同じですが、非上場会社の場合、これらのメリットは上場企業に比べて少ないと思われます。
非上場会社が従業員持株会制度を導入するメリットは、主にオーナーの「相続税対策」にあります。
つまり、
オーナーの所有する自社株式を、少数株主である従業員持株会に低額(配当還元価額)で譲渡し、自己の保有する株式数を減少させる
というものです。
以前の記事で、
配当還元方式とは、おおまかにいうと少数株主の所有する非上場株式に対して適用される評価方法です。少数株主は会社に対する支配権がないため、会社の資産内容ではなく配当額を基準にして評価する、との考え方によります。
中小企業で毎年多額の配当を行っている会社は少ないので、その評価額は原則的評価方式による評価額に比べて低くなるのが一般的です。
と書きました。
つまり、オーナーが所有していると「原則的評価方式」という高い評価額で評価されてしまう自社株式を、「配当還元方式」という低い評価額で従業員持株会に譲渡することにより、オーナーの所有する財産の価額
を減少させる、というものです。
この方法により自社株式の譲渡を行った場合、税務上はどのように取り扱われるのでしょうか?
以前の記事で、
時価より「著しく低い価額」で譲渡を行った場合、時価と実際の対価との差額は贈与があったものとされ、買主に贈与税が課されます。
と書きました。
同族株主等から少数株主へ自社株式を譲渡する場合、配当還元価額は「著しく低い価額」にあたらないので、買主である少数株主に贈与税は課されません。
また個人間の売買である限り、売主である同族株主等にみなし譲渡(時価で売ったものとみなして譲渡所得の計算をする規定)の適用もありません。
ということで、税務上の問題はなさそうです。では、他にどのような注意点があるのでしょうか?
従業員持株会は、オーナーからすると「他人=第三者」です。オーナーとの関係が良好なときは問題ありませんが、例えば経営状況の悪化などの理由で従業員との関係が悪くなることも考えられます。
従業員持株会は議決権を有しているので、経営に一定の影響を与える可能性があります(従業員持株会に発行する株式を無議決権株式にすればこの問題はクリアされますが、株主である以上影響はゼロとは言えません)。
また、従業員持株会制度を導入する場合に最も気を付けなければならないのは、会員規約の内容です。
株式の散逸を防ぐため、入会者は会社の従業員とすること。また在職中の他人への譲渡を禁止し、退職時には退会して株式を手放す仕組みを作る必要があります。
そうすると、退会時に株式を誰が、いくらで買い取るか?という問題が生じます。
一般的には、持株会を通じて他の従業員が買い取ることになりますが、その場合の税務上の価額は配当還元方式により評価します。
しかしそれができない場合、オーナーが買い戻す可能性もあります。そうすると、上記と異なり税務上の価額は原則的評価方式による価額がベースとなるので、配当還元方式による価額で買い戻した場合はオーナーに贈与税の課税関係が生じます。
従業員持株会によっては、会員規約で売買価額を固定するケースもあります。この場合、上記の課税関係に十分注意する必要があります。
従業員持株会に自社株式を所有させることは「自社株式の分散」を意味します。一度他人が所有した株式を、オーナー一族が再び集めるのは容易ではありません。同族会社が従業員持株会を導入する場合は、オーナー側のメリットだけではなく従業員側のメリットが明確であること、会員規約を作成し厳格に管理運営すること、が大前提と考えます。
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vol.178(since 07/01/07〜)
19/04/10
会社は、自分が発行した株式の一部を所有することができます。この株式のことを「自己株式」、別名「金庫株」と呼ばれています。その名の通り、自分で発行した株式を自分で保有し、金庫にしまっておく、というイメージです。
なぜ自分で発行した株式を、わざわざ自分で保有する必要があるのでしょうか?
いくつか理由が考えられますが、同族会社で多いのが「オーナーの代わりに、会社が買い取る」というものです。
具体的には、
・同族会社のオーナー社長が、他の株主から株式を買い取ろうとしている
・しかし株式の価額が高額で、社長に買い取り資金がない
・そこで資金に余力がある同族会社に、株式を買い取ってもらう
というケースです。
これとは別に「会社がオーナーに株式買取資金を貸し付ける」という方法があります。
しかし、会社がオーナー個人に多額の資金を貸し付けるのは財務上問題があるでしょう。特に会社が金融機関から融資を受けている場合は、金融機関は「融資した資金が目的外に流用されている」と捉えることになります。
そこで、会社に直接買い取ってもらうわけです。
そうすると、「株式を、いくらで買い取るか?」という問題が生じます。
以前の記事で、
・自社株式を売買するときの価額は、「時価」を用いる
・譲渡の場合の自社株式の価額=時価の算定は、相続税評価額を計算する方法を準用する
と書きました。また、
税務上の時価は、
同族株主 →原則的評価方式
同族株主以外→配当還元方式
により評価します。
と書きました。
配当還元価額は一般的に低額となります。そのため株主が同族株主以外の場合、売買価額が低額であっても税務上の問題は基本的には生じません。
しかし株主からすると、税務上の時価は低額であったとしても、価値のある株式を安い価額で売りたくはないはずです。
そのため実務上は、原則的評価方式による価額を参考にして売買価額を決定することになります。
ではこの場合、誰に、どのような税金が課されることになるでしょうか?
課税関係は以下のようになります。
・売主(株主)
「資本金等の額に対応する部分を超える部分」の金額は、みなし配当(総合課税)として所得税が課される
・買主(同族会社)
課税関係なし(資本等取引と考えられる)
・他の株主
売買価額が「著しく低い価額」の場合、株式の価値の増加した部分に対し贈与税が課される
売主からすると、
・個人(オーナー)に譲渡した場合
譲渡益に対して所得税が課される(分離課税・15.315%)
・発行法人に譲渡した場合
みなし配当として所得税が課される(総合課税・5〜45%)
となり、譲渡する相手によって、また譲渡金額や売主の所得の多寡によって、納税額が異なることになります。
また、「著しく低い価額」で譲渡した場合、「他の株主」に対して「贈与税」が課税される、というロジックは、極めて分かりにくいと思います。
例えば、株主が発行会社に対し、時価100円の株式を10円(著しく低い価額とする)で譲渡したとします。そうすると、会社はその株主から90円(100円−10円)の利益を受けたことになります。
会社からすると、受けた利益(90円)分の自己資本が増加したことになります。
それは間接的に「他の株主」の所有する株式の価値が増加することを意味します(実際に、譲渡後の株価は譲渡前の株価に比べて上昇します)。
この株価が増加した部分の金額を、「譲渡株主」から「他の株主=既存株主」への贈与と捉え、既存株主に贈与税を課す、というわけです。
オーナー社長に株式の買い取り資金がないような場合、「金庫株」は有効な手段となります。しかし売買価額によっては思わぬ課税や、不利な課税がされることもあります。
事前のシミュレーションが大切です。
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vol.179(since 07/01/07〜)
19/05/10
前回は、
「なぜ自分で発行した株式を、わざわざ自分で保有する必要があるのでしょうか?」
具体的には、
・同族会社のオーナー社長が死亡し、後継者である長男が株式を相続した
・しかし株式の評価額が高額であるため相続税が高くなる
・長男には納税資金がなく、相続税が納税できない
・そこで資金に余力がある同族会社に、相続した株式を買い取ってもらう
というものです。
相続税は「現金一時納付」が原則です。
後継者は通常、オーナー社長の保有する同族会社株式の大半を相続することになりますが、価値の高い株式には多額の相続税が課されます。
そして、非上場株式は市場で換金できません。後継者は相続税の納税資金に窮することになります。
前回述べた通り、発行法人に株式を売却する場合は
売買価額=原則的評価方式をベースに算定した時価
税金=資本金等の額に対応する部分を超える部分の金額は、みなし配当(総合課税)として売主に対し所得税が課される
しかしこの場合、「所得税が高額になる」という問題があります。
例えば、1株の時価1,000,000円、資本金等の額50,000円、取得価額50,000円の株式100株を、発行会社に売却した場合の通常の課税関係(他の所得、諸控除はないものと仮定)は、
相続により取得した非上場株式を、その相続等のあった日の翌日から相続税申告書の提出期限の翌日以後3年(=死亡日から3年10か月)以内に、その発行会社に譲渡する場合には、みなし配当課税(総合課税)は行わず、譲渡所得として課税(分離課税)することとされています。
上の事例にあてはめると、
収入金額 1,000,000円×100株 =100,000,000円
譲渡所得=1,000,000円×100株−50,000円×100株=95,000,000円
所得税額 95,000,000円×15.315% =14,549,200円
住民税額 95,000,000円×5% = 4,750,000円
となります。
また、上記期限内に相続財産を譲渡した場合は、相続税の取得費加算(=支払った相続税のうち一定額を、譲渡所得の計算上取得費として控除する)の適用が可能です。そうすると、譲渡所得税は更に低くなります。
昨年このブログで「事業承継税制」を特集しましたが、この税制を適用すれば、後継者がわざわざ会社に相続株式を売却して資金を得る必要はありません。
しかしこの税制が全ての事業承継に適用されるわけではなく、また適用がふさわしくないケースもあります。
金庫株を利用して後継者が納税資金を得るこの方法は、事業承継に当たっての有力な選択肢といえます。
vol.180(since 07/01/07〜)
19/06/11
新聞記事(日本経済新聞2019年5月23日)によると、最近、上場企業の自社株買いが急増しているそうです。
その目的はなんでしょうか?
同記事によれば、「自社株買いは、株式需給が引き締まり株価を高める効果があるほか、1株当たりの利益も増える。少ない資本でどれだけ効率的に稼ぐかを示す指標、自己資本利益率(ROE)を底上げする効果もある。」とあります。
会社が自社株式=金庫株を取得すると、株価が高くなる?
これって本当なんでしょうか???
実はこのロジックには、「その会社の株価が、本来の価値(=上場株式が、市場に流通していないと仮定した場合に取引されるであろう価額)と比べて市場で過小評価されている場合」という条件が付きます。
事例で説明しましょう。
A社は発行済株式数1万株、1株の「本来の価値」を1万円とすると、この時点での会社の本来の純資産は
1万株×1万円=1億円となります。
この時、A社株式は市場で8000円で取引されていたとします。「本来の価値」に対して、2000円割安です。
つまり、会社が金庫株を、市場から割安な価額で取得することによって、他の株主の所有する株式の「本来価値」が上昇したことになるのです(この事例では、10000円→10500円)。
しかし上場株式の「本来価値」が上昇しただけでは、株式の「潜在的な利益」が増加したのみで、株主に直接のメリットはありません。
会社が自社株式を取得後増配したり、また更なる割安感が生じれば株式の需要(=人気)が高まります。この結果株式の「市場流通価額」が上昇することによって、株主に具体的なメリットが生じることになります。
では上場株式のように、非上場会社が自社株買いを行った場合、他の株主の所有する株価は高くなるのでしょうか?
もうお分かりと思いますが、非上場株式は市場に流通しないので「市場流通価額」はなく、「市場流通価額」と「本来価値」との差は生じることがありません。よって理論上、非上場会社が株主から「本来価値=時価」で株式を購入する限り、他の株主の価額は上がることも下がることもありません。
(「著しく低い価額」で取得した場合の課税関係については、以前の記事参照)
非上場会社が自社株式を取得する主な理由は前回、前々回に書きました。非上場会社に限れば、これらの理由以外には金庫株を取得するメリットはなさそうです。
では、会社は取得した金庫株をどうすればよいのでしょうか?次回以降のテーマとします。
vol.181(since 07/01/07〜)
19/07/16
最も考えられるケースは「何もしない」、つまり「金庫株として保有を続ける」ということです。
会社法上、会社が自己株式を保有し続けることについて、特に制限はありません。
また大きなデメリットも見当たりません。そのため非上場会社の場合、金庫株を取得するとそのままにしておく、というのが一般的です。
1株主の議決権割合が変動する
自己株式には議決権や配当請求権はありません。
よって会社が金庫株を取得する前と後では、他の株主の議決権割合が変動する可能性があります。
資本金の額(1億円基準)で判定するため
・地方税均等割の判定
資本金等の額が減算された場合は、資本金の額(+資本準備金の額)で判定するため
次回は、自己株式を処分した場合の注意点について述べます。
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vol.182(since 07/01/07〜)
19/08/06
前回は、自己株式の「保有」について述べました。
そして保有を続けることに特にデメリットがないことを挙げたうえで、
今回は、保有している金庫株を処分、つまり売却した場合の取り扱いです。
ところで、金庫株を処分する目的とはなんでしょうか?
それは会社がキャッシュを手に入れること、つまり「資金調達」に尽きるでしょう。
しかもその原資を、返済が必要な「借入金」ではなく、株主からの払込である「自己資本」として調達することが可能なのです。
新株発行(増資)に比べると手続きも簡易で、財務や税務に与える影響も少ないと言えます。
では前回同様、留意点を「会社法」「会計」「税務」の視点から整理します。
1会社法
自己株式の売却は、市場で行うことはできないため、「株主割当」「公募」「第三者割当」のいずれかの手続きにより処分することになります。
株主割当とは、株主に対してその持ち株比率に応じて均等に株式を割り当てることを言います。
また公募は不特定多数の者に対して株式の募集をすることを言います。
これに対して第三者割当とは、特定の者(株主であるかないかを問いません)に対して株主を割り当てることを言います。
例えば複数の株主のいる会社で、オーナー社長や後継者など「特定の者」に株主を割り当てる場合はこれに該当します。
非上場会社の場合、「第三者割当」のケースが多くなると思います。
資本金 10,000,000(払込金額1,000円/株×10,000株)
その他資本剰余金 0
自己株式 △1,000,000(取得価額1,000円/株× 1,000株)
この状況で、自己株式1000株を、1株2000円(時価)で処分します(計2,000,000円)。
自己株式処分差額は、2,000,000円−1,000,000円=1,000,000円(差益)となり、貸借対照表上の表示は以下のようになります。
資本金 10,000,000
その他資本剰余金 1,000,000
3税務
自己株式の処分は、税務上「資本等取引」に該当します(処分価額が「資本金等の額」の増加として取り扱われる)。
よって自己株式を処分して処分差損益(取得価額と処分価額との差額)が生じたとしても、会社の損益に影響はありません。
前回の記事では、「資本金等の額」の増減が税務に与える影響として、
主なものは「寄附金の損金算入限度額」で、資本金等の額の減少=損金算入限度額の減少、となります。
と書きましたが、処分の場合は逆に、資本金等の額の増加=損金算入限度額の増加、となります。
また、これも前回書きましたが、資本金等の額≠資本金の額のため、法人税率や地方税均等割の判定への影響はありません。
ところで、自己株式の処分は処分時の時価によること、また自己株式の処分は会社の損益に影響を与えない、と書きました。
そうすると、自己株式は「時価ではなく、いくらで売ってもよいのではないか?」との疑問が生じます。
しかし、会社が自己株式を時価より低い価額で特定の株主に売却した場合、その特定の株主等に課税関係が生じる場合があるので注意が必要です。
vol.183(since 07/01/07〜)
19/09/05
前回の記事で、
ところで、自己株式の処分は処分時の時価によること、また自己株式の処分は会社の損益に影響を与えない、と書きました。
そうすると、自己株式は「時価ではなく、いくらで売ってもよいのではないか?」との疑問が生じます。
しかし、会社が自己株式を時価より低い価額で特定の株主に売却した場合、その特定の株主等に課税関係が生じる場合があるので注意が必要です。その解説は、次回このブログで。
と書きました。
では、会社が自己株式(金庫株)を処分した価額が
1 時価より低い場合
2 時価より高い場合
の課税関係を具体的に見てみましょう。
1 時価より低い価額で処分した場合
自己株式を、第三者割当(前回の記事参照)により時価より低い価額で処分した場合、「他の株主」からその「第三者」へ利益が移転したものとされ、その「第三者」に対し贈与税が課税されます。
事例で説明しましょう。
例えば、発行会社が第三者(株主であるかないかを問いません)に対し、時価100円の自己株式を10円で譲渡したとします。そうすると、その株主は会社から90円(100円−10円)の利益を受けたことになります。
実は以前の記事「金庫株(1)〜オーナーに代わって、会社が買い取る〜」で、株主が株式発行会社に対し、その株式を「著しく低い価額」で譲渡した場合、「譲渡株主」から「他の株主=既存株主」に対して贈与税が課税される、と書きました。
そのロジックの裏返しなのです。
「株主割当」は既存株主に対し、その持株割合に応じて株式を処分(譲渡)します。そうすると、処分前後で持株割合は異動しないため、仮に時価より低い価額で株式を処分しても、株主間で株式の価値に差は生じないことになります(同じ割合で価値が減少する)。
従って、贈与税課税は生じません。
2 時価より高い価額で処分した場合
自己株式を、第三者割当により時価より高い価額で処分した場合、その「第三者」から「他の株主=既存株主」へ利益が移転したものとされ、その「既存株主」に対し贈与税が課税される可能性があります(1とは逆のパターンです)。
ところで、「時価より高い価額で処分」するのは、実際どのような場面で行われるのでしょうか?
第三者からすると、株式をわざわざ時価よりも高い価額で買い取ってあげることになり、会社に利益を与えることになります。
例えば会社が債務超過で、会社の再建支援を目的に行うことなどが考えられます。
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vol.184(since 07/01/07〜)
19/10/15
金庫株〜取得後の処理〜というテーマで、「保有」「処分」「処分価額」と続けましたが、最後は「消却」です。
自己株式の「消却」とは、文字通り、株式を消滅させることを言います。
では自己株式の消却について、会社法・会計・税務の視点から確認しましょう。
自己株式の消却は、取締役会の決議により行います。
また消却により、消却株式数に対応する発行済株式総数が減少することから、登記が必要となります。
2会計
自己株式を消却した場合は、自己株式の帳簿価額を「その他資本剰余金」から減額します。
自己株式の帳簿価額が「その他資本剰余金」より大きい場合は、まず「その他資本剰余金」を減額(この結果、資本剰余金は0円になる)し、減額しきれなかった金額は「その他利益剰余金」から減額します。
ケーススタディです。
A社の純資産の部は以下のようになっています。
資本金 10,000,000(払込金額1,000円/株×10,000株)
その他資本剰余金 0
その他利益剰余金 40,000,000
自己株式 △20,000,000(取得価額20,000円/株×1,000株)
資本金 10,000,000
その他資本剰余金 0
その他利益剰余金 20,000,000
シンプルですね。
ところで、こんな疑問が湧きませんか?
「株式を消却するのだから、資本金の額が減少するのではないか?」
答えは「NO」です。
会社法上、「自己株式の消却」と「資本金の額の減少」は別個の行為として位置づけられています。
資本金の額を減少させるためには、別に減資の手続きが必要です。
しかし1で記したとおり、発行済株式総数は減少します。
A社の場合、自己株式消却後の発行済株式数は9,000株(10,000株−消却1,000株)となりますが、資本金は1,000万円と変更がないことに注意が必要です。
3税務
結論から言うと、自己株式を消却しても株主等に対して格別の課税関係は生じません。
以前の記事で述べたとおり、会社が自己株式を取得(=金庫株)したときには、譲渡した株主に所得税が課されるなどの課税関係が生じます。
会社が自己株式を取得したときは、税務上「資本の払戻し」として捉えます。
つまり税務上は、自己株式を取得したときに、その株式は消滅したものとして取り扱うため、「消却」した時点での影響はないことになります。
ところで、自己株式を消却する目的とは何でしょうか?
自己株式の消却により、発行済株式数は減少し、また純資産の部から「△自己株式」の表示が消滅します。
しかし税務上、財務上の影響はありません。
そうすると、消却の目的は「会社の決算書を整理する」、つまり見た目をよくする、ということにありそうです。
vol.185(since 07/01/07〜)
19/11/08
・増資で得た資金は、無担保・無保証の長期安定資金として活用できる。
・長期安定的な与党株主となり、他方、社外株主等の持ち株比率は下がり、結果的に現在の経営者の経営権が強化されます。
vol.162(since 07/01/07〜)
22/06/10(17/12/11改)
※令和2年最高裁判決を受けて所得税基本通達が改正されたため記事内容を改訂しました。
前々回は、
・相続税評価額によって計算した株価は、相続・贈与でのみ通用する価額であって、譲渡の価額ではない
・自社株式を売買するときの価額は、「時価」を用いる
ことを書きました。
また前回は、
・譲渡の場合の自社株式の価額=時価の算定は、相続税評価額を計算する方法を準用する
・時価より「著しく低い価額」で譲渡を行った場合、時価と実際の対価との差額は贈与があったものとされ、買主に贈与税が課される
ことを書きました。
さらに話は続きます。
今回のサブタイトルは「売り手が同族株主か少数株主かで違う?自社株式の価額」です。
まず具体例を挙げましょう。
A社の社長Bは、A社の株式を90%所有しています。
残りの10%はCが所有。CはA社の役員で、Bと親族関係はありません。
Cは今年A社を定年退職することになり、BはCが所有するA社株式を購入することにしました。
では、BとCはA社株式をいくらで売買すればよいでしょうか?
この場合「税務上の時価」を算定し、譲渡価額が「著しく低い価額」にならないかどうか判断することが重要であるということを前回述べました。
更に留意点があります。
このケースでは、売り手が同族株主か少数株主かにより「税務上の時価」は異なる、ということです。
この差異が生じる理由は、BとCの会社との関係にあります。
A社は筆頭株主グループ(B)の議決権割合が50%超の会社であり、「(譲渡直前に)同族株主のいる会社」に該当します。
またBグループの持株割合は50%超であることから、Bは「同族株主」に該当し、かつ(譲渡直前の)Bの議決権割合は5%以上(90%)です。
これに対して、Cグループの議決権割合は50%以下であることから、Cは「同族株主以外の株主」に該当します。
そして税務上の時価は、
売り手が(譲渡直前において)同族株主 →原則的評価方式(前回説明した評価方法です)
売り手が(譲渡直前において)同族株主以外→配当還元方式
により評価します。
配当還元方式とは、いわゆる少数株主が「相続により取得」した非上場株式、及び少数株主が「譲渡又は贈与した」非上場株式に適用される評価方法です。少数株主は会社に対する支配権がないため、会社の資産内容を反映する原則的評価ではなく、その会社から受けた配当額を基準にして評価する、との考え方によります。
中小企業では毎年多額の配当を行っている会社は少ないので、その評価額は原則的評価方式による価額に比べて低くなるのが一般的です。
そして上記の事例では、売り手であるCは譲渡直前において「同族株主以外の株主」に該当するため、CからBに譲渡するA社株式の税務上の時価は「配当還元方式」により評価した価額となります。
実務上、非上場株式を売買する場合は
①売り手が「同族株主」又は「同族株主以外」であるかを判定する
②売り手に適用される評価方法(原則的評価方式又は配当還元方式)により「税務上の時価」を算定する
③②の評価額を基に、取引価額が「著しく低い価額」にならない範囲で売買価額を決定する(もちろん、「著しく低い価額」であっても売買は可能ですが、その場合は別途贈与税の申告が必要です)
の手順によるのが安全です(なお株式発行会社が「同族株主のいない会社」に該当する場合であっても、株主の状況により「原則的評価方式」と「配当還元方式」に区分して評価します)。
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「名義株」は法律上定義された用語ではありませんが、通達等では「株主名簿等に記載されている者が単なる名義人であって、当該名義人以外の者が実際の権利者である場合には、その実際の権利者」が所有する株式、とされています。
vol.223(since07/01/07~)
23/06/05
ここで取り扱っているタイトル「事業承継の実務・自社株式」では、主に「先代社長が保有している自社株式を、どのようにして後継者に譲り渡すか」をテーマに、「譲渡」や「贈与」などのケースについて、それぞれの「税務上の価額」や「発生する税金」について記してきました。
ところでこれら中小企業の株式は、譲渡(贈与)する側と受ける側とでの合意があれば、自由に譲渡(贈与)して構わないのでしょうか?
そもそも会社法には「株主は、その有する株式を譲渡することができる」との定めがあり、株式は原則として自由に譲渡することができます。
しかしこれでは経営に支障が生じるため、ほとんどの中小企業は自社株式の全部を「譲渡制限株式」とし、自社株式を譲渡するには会社の承認が必要であると定めています。
具体的には、会社の定款で「当会社の発行する株式は、すべて譲渡制限株式とし、当会社の株式を譲渡により取得するには、株主総会(又は取締役会等)の承認を受けなければならない」旨を定め、その内容が「株式の譲渡制限に関する規定」として登記されます。
しかし、「当社の株式は譲渡制限株式だから、オーナー社長にとって好ましくない株式譲渡の申込みがあったときは株主総会等で否決すれば譲渡は成立しない」と考えるのは早計です。
会社法上、譲渡承認手続きは概ね以下のような流れで行われます。
1譲渡希望者である株主(請求人)⇒会社に対し、譲渡承認請求
2会社⇒請求人に対し、承認又は不承認の通知(1の請求日から2週間以内に通知をしない場合、承認したものとみなされる)
3(2で不承認の場合)請求人⇒会社に対し、会社(又は指定買取人)による譲渡対象株式の買取請求が可能
4(3で買取請求の場合)会社⇒請求人に対し、買取の通知(2の通知の日から40日以内に通知をしない場合、承認したとみなされる)
5売買価格の協議(成立しない場合、裁判所に申立)
中小企業の株式の譲渡や贈与は、通常事業承継の一環として行われ、この場合当然オーナー社長による計画、主導のもと行われます。
つまり1の「譲渡希望者である株主(請求人)」は「オーナー社長(又はその親族)」であり、オーナー社長等からの譲渡承認請求に対し会社は株主総会を経て2で承認通知をする、というのが一般的な流れです。
しかし前回の記事「自社株式:名義株を、整理しましょう。」で述べたとおり、会社の株主に株式名義人やその相続人がいる場合は注意が必要です。
仮にこれらの株主が第三者に対し株式を譲渡しようとする場合、株主(請求人)は会社に対し1の譲渡承認請求を行う必要があります。そして会社は株主総会でその請求を不承認とすることが可能です。しかし2の不承認の通知を受けた請求人は、会社に対し3の株式の買取請求をすることができ、会社は請求人の所有する自社株式を基本的に買取らなければなりません(買取価格は協議により決定します)。
つまり「譲渡制限株式」発行会社は、新たな株主の出現を制限することはできますが、既存株主からの株式買取請求には応じなければならない、ということになります。
なお冒頭で、「ところでこれら中小企業の株式は、譲渡(贈与)する側と受ける側とでの合意があれば、自由に譲渡(贈与)して構わないのでしょうか?」と書きましたが、ここで言う「譲渡」には「贈与」も含まれます。つまり株主が「贈与」により他人に株式の権利を移転するような場合であっても、その株式が「譲渡制限株式」である以上、会社に対し譲渡承認請求を行う必要があります。
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、
vol.232(since07/01/07~)
24/06/06
以前「贈与と譲渡で違う?自社株式の価額(3)」という記事で
売り手が(譲渡直前において)同族株主 →原則的評価方式(前回説明した評価方法です)
売り手が(譲渡直前において)同族株主以外→配当還元方式
により評価します。
と書きました。また
配当還元方式とは、いわゆる少数株主が「相続により取得」した非上場株式、及び少数株主が「譲渡又は贈与した」非上場株式に適用される評価方法です。少数株主は会社に対する支配権がないため、会社の資産内容を反映する原則的評価ではなく、その会社から受けた配当額を基準にして評価する、との考え方によります。
中小企業では毎年多額の配当を行っている会社は少ないので、その評価額は原則的評価方式による価額に比べて低くなるのが一般的です。
と書きました。
では配当還元方式では、具体的にどのように計算するのでしょうか?
国税庁タックスアンサー「取引相場のない株式の評価」には、
「配当還元方式とは、その株式を所有することによって受け取る一年間の配当金額を、一定の利率(10パーセント)で還元して元本である株式の価額を評価する方法です。」
とあります。
具体的な計算方法は通達で以下のとおり定められています。
評価時期の直前期及び直前々期につき、以下の算式で計算した金額の平均額
(その株式に係る年配当金額/10%)×(その株式の1株当たりの資本金等の額/50円)
※上記算式中、「その株式に係る年配当金額」とは、「1株当たりの資本金等の額」を50円とした場合の金額です。また、この金額が2円50銭未満(無配を含む)の場合は2円50銭とします。
事例で説明しましょう。
・評価会社の資本金:1000万円、発行済株式数:1万株
→1株当たりの資本金等の額=1000万円÷1万株=1000円、となります。
・決算期:3月、配当の効力の生ずる日:毎年6月1日、評価時期:2024年6月30日
→当期:2024年4月1日-2025年3月31日
直前期:2023年4月1日-2024年3月31日
直前々期:2022年4月1日-2023年3月31日、となります。
・配当額
当期(効力発生日:2024年6月1日)
0%(1株当たり0円→1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の年配当金額=0円)
直前期(効力発生日:2023年6月1日)
5%(1株当たり50円→1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の年配当金額=2円50銭)
直前々期(効力発生日:2022年6月1日)
10%(1株当たり100円→1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の年配当金額=5円)
この場合、評価会社の評価時期における株式の配当還元価額は
①直前期 (2円50銭/10%)×(1000円/50円)=500円
②直前々期(5円/10%)×(1000円/50円)=1000円
③(①+②)÷2=750円
となり、1株1000円の株式の価額が750円と算出されます。
この算式から、以下のことがわかります。
・評価会社が10%配当を継続した場合の配当還元価額は、1株当たりの価額と同額になる(1株1000円の場合、1000円)
・評価会社が無配を継続した場合の配当還元価額は、1株当たりの価額の4分の1となる(1株1000円の場合、250円)
注意しなければならないのは「直前期」及び「直前々期」のその株式に係る年配当金額で、ここでいう「年配当金額」は「直前期」「直前々期」中に効力が生じたもの、となります。
評価会社の配当支払いを年1回、決算配当のみとすると、決算配当の決議は通常その事業年度終了後2月(又は3月)後に行われるので、実際にその配当の効力が生じるのは「翌事業年度」になります。
つまり決算配当の場合、「直前期」に効力が生じた配当とは「直前々期」の決算に係る配当となります。上記の事例のように、年により配当金額が変わる場合は注意が必要です。
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