vol.183(since 07/01/07〜) 

19/09/05

前回の記事で、


ところで、自己株式処分は処分時の時価によること、また自己株式処分は会社の損益に影響を与えない、と書きました。
そうすると、自己株式は「時価ではなく、いくらで売ってもよいのではないか?」との疑問が生じます。
しかし、会社が自己株式時価より低い価額特定の株主に売却した場合、その特定の株主等に課税関係が生じる場合があるので注意が必要です。その解説は、次回このブログで。

と書きました。


では、会社が自己株式(金庫株)を処分した価額が

1 時価より低い場合

2 時価より高い場合

の課税関係を具体的に見てみましょう。

1 時価より低い価額で処分した場合

 自己株式を、第三者割当前回の記事参照)により時価より低い価額で処分した場合、「他の株主」からその「第三者」へ利益が移転したものとされ、その「第三者」に対し贈与税が課税されます。


事例で説明しましょう。

例えば、発行会社が第三者(株主であるかないかを問いません)に対し、時価100円の自己株式を10円で譲渡したとします。そうすると、その株主は会社から90円(100円−10円)の利益を受けたことになります。



会社からすると、与えた利益(90円)分の自己資本が減少したことになります。それは間接的に「他の株主」の所有する株式の価値が減少することを意味します(実際に、譲渡後の株価は譲渡前の株価に比べて減少します)。



 この株価が減少した部分の金額を、「他の株主=既存株主」から「第三者」への贈与と捉え、第三者に贈与税を課す、というわけです。


実は以前の記事「金庫株(1)〜オーナーに代わって、会社が買い取る〜」で、株主が株式発行会社に対し、その株式を「著しく低い価額」で譲渡した場合、「譲渡株主」から「他の株主=既存株主」に対して贈与税が課税される、と書きました。
そのロジックの裏返しなのです。



なおこの贈与税課税は、自己株式を「第三者割当」の方法により処分した場合に生じますが、「株主割当」の方法により処分した場合は課税はありません。

株主割当」は既存株主に対し、その持株割合に応じて株式を処分(譲渡)します。そうすると、処分前後で持株割合は異動しないため、仮に時価より低い価額で株式を処分しても、株主間で株式の価値に差は生じないことになります(同じ割合で価値が減少する)。
従って、贈与税課税は生じません。


2 時価より高い価額で処分した場合 

自己株式を、第三者割当により時価より高い価額で処分した場合、その「第三者」から「他の株主=既存株主」へ利益が移転したものとされ、その「既存株主」に対し贈与税が課税される可能性があります(1とは逆のパターンです)。


ところで、「時価より高い価額で処分」するのは、実際どのような場面で行われるのでしょうか?


第三者からすると、株式をわざわざ時価よりも高い価額で買い取ってあげることになり、会社に利益を与えることになります。
例えば会社が債務超過で、会社の再建支援を目的に行うことなどが考えられます。



同族会社の場合、株主の割当てを受ける「第三者」は、オーナーやその親族であるケースが殆どです。
買い手からすると、できるだけ安く買いたいと思うでしょう。
そこで自己株式を処分する際は、その価額が「時価より低い価額」でないかどうか、に特に注意する必要があるのです。

→金庫株(7)へ続く

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