vol.168(since 07/01/07〜) 

18/06/07

事業承継税制については、以前の記事で、

「使い勝手が悪く、利用件数が伸びない」

と書きました。

その後の記事で、改正で要件が緩和されたと書きましたが、抜本的なものではなく、利用状況に大きな変化はありませんでした。

「このままでは、日本の中小企業がなくなってしまう」。

その危機感から、平成30年度税制改正で創設されたのが「特例事業承継税制」です。

とても複雑な制度なので、今後数回に分けて説明しますが、まずは2つの重要な「期日」から押さえていきましょう。

1 2023年3月31日までに「特例承継計画」を提出

 この制度の適用を受けるためには、2023年(平成35年)3月31日までに、都道府県に「特例承継計画」を提出する必要があります。この計画は、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けて会社が作成し、計画に支援機関の所見を記載しなければなりません。

 経営革新等支援機関には、4月現在全国で約28000件が認定されています。その多くは税理士や公認会計士で、当事務所も認定を受けています。この承継計画は、実務的には認定支援機関である顧問税理士の支援の下で作成・提出することになります。


 中小企業庁HPに掲載された申請書の記載例を見ると、後継者の氏名、承継時までの経営見通し、承継後の経営計画等を記載するようになっていて、全4〜5ページと比較的書きやすいものとなっています。 

2 2027年12月31日までの「贈与・相続」が対象


 この制度の基本的な仕組みは、先代経営者が、その所有する自社株式を、2027年(平成39年)12月31日までに後継者に一括贈与した場合に、その贈与税の全額を納税猶予する、というものです。なお、この間に相続が発生した場合には、自社株式の評価額に対応する相続税額が納税猶予されます。

 「特例」事業承継税制とある通り、この制度は今までの制度(=現事業承継税制)を残しつつ、時限措置として新たに「創設」された制度です。要するに、贈与税を猶予する10年間(2027年12月31日まで)に、自社株式を贈与して事業承継を完了させてください、という趣旨です。


つまり、この特例制度を受けるためには、

2023年(平成35年)3月31日までに承継計画を提出

2027年(平成39年)12月31日までに自社株式を贈与

することが絶対条件です。

 2027年、といってもピンと来ないかもしれません(平成ではないことは明らかですね)。しかし、2027年は今から9年後。その時の自分の年齢を考えればイメージしやすいのではないでしょうか。


 なお、仮に承継計画を期限内(2023年3月31日)に提出したが、計画通りに事業承継が進まず、その結果2027年12月31日までに贈与を行わなかった場合であっても、特に罰則等はありません。従って、今後10年以内に具体的な承継計画がなくても、少しでも可能性があれば承継計画を提出する、という選択肢もありそうです。

 では、特例制度には具体的にどのような効果があるのか?また、現行制度との違いは何か?次回以降解説します。

→特例事業承継税制(2)に続く

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vol.169(since 07/01/07〜) 

18/07/09

前回の記事では、

この特例制度を受けるためには、

2023年(平成35年)3月31日までに承継計画を提出

2027年(平成39年)12月31日までに自社株式を贈与

することが絶対条件です。

と書きました。そして、

この制度の基本的な仕組みは、先代経営者が、その所有する自社株式を、2027年(平成39年)12月31日までに後継者に一括贈与した場合に、その贈与税の全額を納税猶予する、というものです。なお、この間に相続が発生した場合には、自社株式の評価額に対応する相続税額が納税猶予されます。

とも書きました。

ここで、納税猶予という言葉に注意が必要です。
猶予とは、実行の時日を延ばすこと(BY広辞苑)。似た言葉に「免除」がありますが、免除とは「義務を消滅させること」で、「猶予」とは異なります。

両者の決定的な違いは、

納税猶予の場合=一定要件を満たさなくなった場合納税義務が復活する

のに対し、

納税免除の場合=納税義務が完全に消滅する

という点にあります。

事業承継税制の基本は納税猶予。つまりこの特例を受けても、贈与税や相続税の納税義務が直ちに「免除」されるわけではないのです。

では、いったん猶予された納税義務はいつ復活し、あるいはいつ免除されるのか?
これこそが、事業承継税制のキーポイントなのです。

特例を受けた場合の具体的な流れを見てみましょう。

①1代目経営者が、その所有する自社株式を2代目経営者に一括贈与

→本来は2代目経営者に贈与税が課税されるが、その贈与税を納税猶予

②1代目経営者が死亡

→①で猶予されていた贈与税が免除

 →1代目経営者の相続税のうち、贈与した自社株式に係る部分を納税猶予

③2代目経営者が、その所有する自社株式を3代目経営者に一括贈与

→②で猶予されていた相続税が免除

→本来は2代目経営者に贈与税が課税されるが、その贈与税を納税猶予

おわかりいただけましたか?

基本的には、

贈与税猶予→贈与税免除&相続税猶予→相続税免除&贈与税猶予

というループが続いていくのです。

ここで、ひとつ疑問が生じませんか?
②で「1代目経営者の相続税のうち、贈与した自社株式に係る部分を納税猶予」と書きました。
しかしそもそも、株式は既に後継者に贈与してしまっているのだから先代経営者の相続財産ではなく、従って相続税の課税対象にはならないはずです。

実は、ここが事業承継税制の大きなポイントです。
この税制の適用を受ける場合、先代経営者から贈与された自社株式は、先代経営者の死亡時に、先代経営者から相続(又は遺贈)により取得したものとみなされて相続税が課されるのです。

そして②の通り、先代経営者の死亡時点で贈与税は免除、自社株式に係る相続税は猶予、となるので、結果として贈与税及び自社株式に係る相続税の納税はないことになります。

従って、この特例を受けたほうがよいかどうかは、その自社株式の価額によって左右されることになります。
自社株式の価額がそれほど高額でなく、通常の贈与で多額の贈与税を負担することなく自社株式を移転できる場合は、この特例を使うメリットは少ないといえます。

以上の通り、この税制の基本は「免除」ではなく「猶予」です。
そして「猶予」を受け、また継続するためには様々な要件があり、その要件を満たさなくなった場合は猶予打ち切りとなるのですが・・・・・次回は、その「猶予の打ち切り」について話したいと思います。

→特例事業承継税制(3)に続く

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vol.170(since 07/01/07〜) 

18/08/08

前回の記事では、

事業承継税制の基本は納税「猶予」。つまりこの特例を受けても、贈与税や相続税の納税義務が直ちに「免除」されるわけではないのです。

と書きました。そして

猶予」を受け、また継続するためには様々な要件があり、その要件を満たさなくなった場合は猶予打ち切りとなるのです

とも書きました。

ここで重要なのは、たとえ納税猶予を受けられたとしても、その後「一定の要件」を満たさなくなった場合、猶予が打ち切りになってしまう、ということです。

具体的には、贈与税(又は相続税)の申告期限から5年間(この期間を「事業承継期間」といいます)の間に、「一定の要件」を満たさないこととなると納税猶予が取り消され、その満たさなくなった時点で猶予税額の納税が必要となってしまうのです。


では「一定の要件」とは何でしょうか?

主なもののみ掲げます。

1報告・届出を怠ったとき(毎年、都道府県及び税務署への報告及び届出が必要)

2後継者が、代表者でなくなったとき(障害者等になった場合を除く)

3常時使用従業員数が8割を下回ったとき(雇用確保要件)

4会社が倒産・解散したとき

5後継者が自社株式を譲渡・贈与したとき(譲渡・贈与した部分について猶予取り消し)

6「資産保有型会社」又は「資産運用型会社」となったとき(5年経過後においても猶予取り消し)

7総収入金額が零になった場合

8先代経営者が代表者に復帰した時

これらの「要件」は、従来の事業承継税制においても定められていました。
特に3の「雇用確保要件」は、人材確保がままならない現在の経済環境においては非常にハードルが高く、この要件があるために従来の事業承継税制は活用されなかった、と言われています。

そこで今回創設された特例事業承継税制では、この要件が実質的に撤廃されました。
どういうことかと言うと、

・雇用確保要件を満たさない場合であっても、認定経営革新等支援機関の意見が記載されている「雇用確保要件を満たせない理由を記載した書類」を都道府県に提出すれば納税猶予の取り消しはないものとする

・雇用確保要件を満たせない理由が「経営状況の悪化である場合」又は「正当なものと認められない場合」には、認定経営革新等支援機関からの指導及び助言を受けた旨及びその内容を上記書類に記載すればよい

こととされたのです。

つまり「要件」自体は残っているが、認定経営革新等支援機関の協力があれば事実上パスできるようになったことから「実質的に撤廃」となったのです。(認定経営革新等支援機関→前々回の記事参照)

従来ネックとなっていたこの要件が事実上なくなったことで、特例事業承継税制は格段に使いやすくなった、と言われています。

その他の要件を見ると、基本的には「後継者は5年間、会社を事業承継したままの状態で、経営を続けてくださいね」ということを要請しているといえます。

もっとも、要件の中には6のように、5年経過後も継続しなければならないものもあります。また将来会社の売却、合併消滅、解散をした場合は税額の一部が減免される措置はあるものの、基本的にはその時点で猶予税額を納税しなければなりません。
この税制を適用するか否かは、様々な事態を想定したうえで判断する必要があります。

ところで、6で「資産保有型会社」「資産運用型会社」という用語が出てきました。実は事業承継税制は、全ての会社に適用されるわけではありません。その適用されない会社の代表例が「資産保有型会社」「資産運用型会社」なのですが・・・・・次回は、これらの会社について記します。

→特例事業承継税制(4)に続く

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vol.171(since 07/01/07〜) 

18/09/05

前回の記事では、

この税制は、贈与税(又は相続税)の申告期限から5年間(この期間を「事業承継期間」といいます)の間に、「一定の要件」を満たさないこととなると納税猶予が取り消され、猶予税額の納税が必要となるのです。

と書きました。

そして、その「一定の要件」のひとつに、

資産保有型会社」又は「資産運用型会社」となったとき(5年経過後においても猶予取り消し)

と挙げたうえで、

実は事業承継税制は、全ての会社に適用されるわけではありません。その適用されない代表例が「資産保有型会社」「資産運用型会社」なのですが・・・・・。

と書きました。

今回は、その「資産保有型会社」「資産運用型会社」について記します。

1 資産保有型会社

 「特定資産」の価額の総額が、全財産の70%以上を占める会社をいいます。
なお、判定は帳簿価額により行います。

2 資産運用型会社

 総収入金額に対して、「特定資産」の運用収入の合計額が75%以上を占める会社をいいます。 

キーワードは「特定資産」です。

特定資産」とは、

・有価証券
・現に自ら使用していない不動産(第三者へ賃貸しているものも含む)
・ゴルフ会員権、絵画、貴金属等
・現預金
・代表者や同族関係者に対する貸付金、未収金
などをいいます。

特定資産」の運用収入とは、

・有価証券の受取配当、譲渡収入
・預貯金の受取利息
・賃貸不動産の受取地代、家賃、譲渡収入

などが挙げられます。

わかりやすい例が、不動産賃貸業です。
賃貸不動産は「特定資産」に該当します。賃貸不動産を所有している場合、

賃貸不動産の帳簿価額+現預金等≧全資産の帳簿価額×70%
又は
賃貸不動産収入≧総収入金額×75%

となると、資産保有型会社又は資産運用型会社に該当し、この税制は適用できません。

さらに注意が必要なのは、これらの会社に該当しない状態を、贈与や相続の時のみならず、5年経過後も、それ以後も、極端に言うと未来永劫保たなければならないということです。

現在は小売業をやっているけれども、30年後に転業して不動産賃貸業に転換する・・・・・などといったケースは十分に考えられます。このようなケースが将来生じた場合、現行法令上は転換時点で猶予打ち切りとなってしまいます。

なお、「資産保有型会社」「資産運用型会社」に該当した場合であっても、次のすべての要件を満たす場合にはこれらの会社に該当しないものとみなされ、この税制を適用することができます。

・商品販売・資産の貸付け(同族関係者に対する貸付けを除く)等を3年以上行っていること
常時使用従業員※(後継者・生計一親族を除く)が5人以上であること
常時使用従業員※の勤務場所(事務所・店舗・工場等)を所有又は賃借していること

  ※常時使用従業員とは、以下の通知書に記載された従業員をいいます。
   ・厚生年金保険の標準報酬月額決定通知書(70歳未満)
   ・健康保険の標準報酬月額決定通知書(70歳以上75歳未満)

 つまり、例えば不動産賃貸業であっても、第三者に対して賃貸を行っていて、かつ、社会保険に加入している第三者従業員が5人以上いれば、「資産保有型会社」「資産運用型会社」とはみなさない、ということです。

不動産賃貸業等を行っていても、これらの要件を満たす場合は、この税制の適用について検討する余地があります。

→特例事業承継税制(5)に続く

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vol.172(since 07/01/07〜) 

18/10/10

このテーマの最初の記事で、

この制度の基本的な仕組みは、先代経営者が、その所有する自社株式を、2027年(平成39年)12月31日までに後継者に一括贈与した場合に、その贈与税の全額を納税猶予する、というものです。

と書きました。

ところで、贈与の方法には

① 暦年贈与
② 相続時精算課税贈与

の2種類があります(以前の記事参照)が、事業承継税制を適用するには相続時精算課税贈与を選択するほうが有利とされています。

しかし、②の方法は受贈者が20歳以上の推定相続人及び孫のケースしか適用できません。つまり親族間の贈与にしか適用されないため、後継者が第三者の場合は対象外となります。

事業承継税制は第三者承継においても適用可能ですが、第三者に対する贈与は相続時精算課税制度を適用できないとすると①の暦年贈与となります。暦年贈与の場合、仮に事業承継税制の適用が取り消されると承継者が多額の贈与税を負担しなければならず、第三者承継の場合の大きなネックとなっていました。

これを踏まえ、特例事業承継税制では、第三者に対する贈与でも相続時精算課税贈与が適用できるようになりました。これにより、後継者が親族でも親族以外でも同じ条件となり、税制上の差はなくなったといえます。

しかし、ここで注意しなければならない点があります。
相続時精算課税贈与は、文字通り、贈与財産の価額を相続時に加算して精算する制度です。つまり、第三者に贈与した自社株式は、先代経営者の相続時に相続税の課税対象となり、事業承継に無関係の他の相続人は自社株式の価額を加算した財産に対する相続税を支払わなければなりません。

ケーススタディで説明しましょう。
先代経営者Aの相続人が子2人BCで、Aが経営する会社を第三者Dが承継し、Dが自社株式を相続時精算課税制度により贈与を受けたとします。
この贈与に関して特例事業承継税制を適用した場合、Dは贈与税の納税を猶予され、贈与時の贈与税は0円です。

さて、Aが死亡した場合はどうなるでしょうか。
Dが贈与時に猶予されていた贈与税は免除されます。
また、DはAの相続税の納税義務者となりますが、今度は相続税の納税猶予を受けることにより相続税は0円となります。

ところが、BCはそうはいきません。
Aが所有していた自社株式以外の財産は、BCが相続します。BCはその相続分に応じた相続税の納税をするのはもちろんですが、相続税の計算の際、Dに贈与した自社株式も相続財産に加算して相続税の計算をしなければならないのです(相続税は累進税率のため、財産の総額が多くなると税率が高くなる)

既に贈与した自社株式に係る相続税を、事業承継と無関係の相続人が支払わなければならない・・・・・第三者承継の落とし穴、といったところでしょうか。このことに関して、事前に相続人の同意を得られるのか?が第三者承継の適用のポイントになります。

→特例事業承継税制(6)に続く

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vol.173(since 07/01/07〜) 

18/11/05

従来の事業承継税制の対象となる贈与は、基本的に
 

 1人の先代経営者→1人の後継者

への相続・贈与を対象としていました。

特例事業承継税制では、

 複数の株主→複数の後継者

への承継が対象となりました。

これを2つに分解しましょう。

①先代経営者以外の複数の株主(親族外を含む)から代表者である後継者への贈与・相続も対象

 株式は先代経営者のみが所有しているとは限りません。先代経営者の配偶者や兄弟、また幹部従業員など、複数の株主が少しずつ株式を所有しているケースはよくあります。
 特例事業承継税制では、後継者への株式の集中を促進するため、これらの株主からの贈与についても特例の対象とされました。

 注意点は、

・先代経営者の贈与が最初でなければならない
・その他の者の贈与は、先代経営者の贈与年から5年の間に行わなければならない
・先代経営者以外の者からの贈与についても、その都度認定手続きが必要

 などです。

複数の後継者への贈与・相続も対象


 前にも書いたとおり、この税制の適用を受けるためには、2023年3月31日までに都道府県に対し「特例承継計画」を提出しなければなりません。そして計画には、株式の贈与を受ける後継者を記載することとされています。
 しかし、この時点までに後継者が一人に絞られているとは限りません。また、当面は代表者を二人に任せたいというケースもあるでしょう。

 特例事業承継税制では、後継者を最大3人まで可能とし、それぞれ特例を受けることが可能とされました(ただし、特例承継計画に全員の後継者を記載する必要があります)。

 注意点は、


・贈与の時までに、それぞれが代表権を有していなければならない
・議決権割合の10%以上を有し、かつ、議決権保有割合上位3位以内の者でなければならない

 などです。

 以上の通り、特例の適用を受ける贈与者と受贈者の範囲は拡大されたのですが、特に②の複数の後継者への贈与については注意が必要です。後継者を複数とすることで、経営権を巡る争いが起きる可能性があるためです。これでは本末転倒です。複数の後継者への贈与は、税制の適用以前の問題として捉えるべきでしょう。

→特例事業承継税制(7)に続く

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vol.174(since 07/01/07〜) 

18/12/13

前回まで6回に分けて、特例事業承継税制について記載しました。

この6回でテーマとしたのは主に留意点(=リスク)です。なのでこの税制の基本的な要件である

・適用対象となる会社の要件

・先代経営者の要件

・後継者の要件

については記載していません。


これら基本的な要件については、国税庁のパンフレットhttps://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku-zoyo/201804/01.pdf

などに詳しく記載されているので参照してください。

あえてリスクを中心に記載したのは、「この税制をいったん使ったら、もう後戻りができない」からです。


第2回の記事でも書いたとおり、特例事業承継税制を選択すると、基本的には

贈与税猶予→贈与税免除&相続税猶予→相続税免除&贈与税猶予

というループが続いていくことになります。


後継者(2代目)は、先代経営者(1代目)から贈与を受けた株式を、次の後継者(3代目)に、この税制の要件に適合するように一括贈与しなければなりません。そして、もし次の後継者(3代目)が自社株式を譲渡したり、この税制の要件から外れた贈与をしたときは、譲渡・贈与した部分について猶予取り消しとなり、贈与税の納税をしなければなりません。。

つまりこの税制を一度適用したら、後継者(2代目)のみならず、次の後継者(3代目)の資本政策をも拘束する、ということになるのです。


さらに言うと、次の後継者(3代目)がさらに次の後継者(4代目)に株式を贈与する際は、自動的にこの税制が適用されるわけではない、という点に留意する必要があります。


この特例事業承継税制で手当てされているのは、「3代目が支払うべき贈与税・相続税を猶予する」ところまで。
つまり、3代目→4代目の株式の贈与・相続に関しては、現時点では特例事業承継税制の適用はないこととなります。


では、4代目はどうすればよいのでしょうか?
現時点で考えられるのは一般事業承継税制の活用ですが、この制度は特例事業承継税制に比べて適用範囲が制限されているため、一般制度を使ったとしても猶予税額の一部は納税となる可能性が高いです。

一般制度を使わなければ通常の贈与・相続で承継することになりますが、そうするとその贈与・相続の時点で猶予税額の全部または一部を納付することになります。
将来まで保証されているわけではない制度を使ってしまって、果たして大丈夫なのでしょうか?

しかしよく考えると、3代目→4代目の事業承継は、いったい今から何十年後に行われるのでしょう?
その時の日本経済は?会社はどうなっているのか?そもそもその時にどのような税制が手当てされているのか?
無責任かもしれませんが「今が大事。その時は、その時だ。」という考え方もありそうです。

そうすると、現時点で確実に実行しておいたほうがいいことが見えてきます。


ひとつは、「納税猶予の対象となる株式数をあらかじめ減らしておく」ということです。
納税猶予の適用を受ける前に、一定数の株式を、通常の贈与や譲渡により後継者等に引き渡したのちに特例事業承継税制を活用すれば、「納税猶予の対象となる株式数」は減少します(もちろん、特例事業承継税制の持株数要件等を満たす必要があります)。


もうひとつは、「納税猶予の対象となる株式の評価額を低くする」ことです。
非上場株式の評価方法は複雑怪奇であり、また改正も頻繁に行われます。株式評価の仕組みを理解したうえで、評価額が下がったタイミングで特例事業承継税制を活用するのが最適です。


なぜこれらの対策が有効なのでしょうか?
特例事業承継税制を活用するのであれば、猶予対象となる株式数や評価額にかかわらず、その贈与税または相続税の全額が猶予されます。しかし将来、予期せぬ事情で、株式の一部又は全部の猶予が取り消しとなる可能性はあるのです。その際は猶予税額を納付しなければならないのですが、この猶予税額を可能な限り引き下げておくことにより、将来の税負担リスクを軽減することになります。


以上、特例事業承継税制について、現時点でのまとめを書きました。
特例は、あくまでも「特例」です。「特例」を使う前に、まず通常の贈与(暦年贈与・相続時精算課税贈与)や譲渡により無理なく株式を承継できないかを検討し、そのうえで「特例」の適用を検討する、というのがセオリーです。

→特例事業承継税制(8)に続く

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vol.212(since 07/01/07〜) 

22/02/26

以前の記事で、全7回に分けて特例事業承継税制について述べました。
この「特例」事業承継税制は平成30年度税制改正で創設され平成30(2018)年1月1日以後の非上場株式の贈与・相続・遺贈について適用されています。
そしてこの制度を適用するためには令和5(2023)年3月31日までに「特例承継計画」を提出しなければなりません(第1回の記事参照)



さて制度がスタートして4年経ちましたが、特例承継計画の提出状況はどうなっているのでしょうか?
特例承継計画の申請件数は、以下の通りです。(経済産業省令和4年度税制改正要望書を基に作成)



平成30年:1,885件

令和元年 :3,817件

令和 2 年:2,918件

令和 3 年:1,520件(8月31日まで)

平成30年→令和元年と増加したものの、令和2年はコロナウィルス蔓延の影響もあってか申請件数は減少しました。
しかし仮にコロナの影響がなかったとしても、提出件数は国が想定していたよりも低調と思われます。
以前書いた全7回の記事では、この税制の要件を将来満たさなくなった場合などの「リスク」を中心に書きました。特例承継計画の提出が進まないのは、これらの「リスク」がクローズアップされ、税制の適用を躊躇している企業が多いためと考えられます。

このような状況を受けて、令和4年度税制改正で、特例承継計画の提出期限が1年間延長される見込みとなりました。
具体的には、



(改正前)令和5(2023)年3月31日→(改正後)令和6(2024)年3月31日

となります。

ただし注意しなければならないのは、贈与税の納税猶予の期限は延長されないということです。
以前のブログで、



この制度の基本的な仕組みは、先代経営者が、その所有する自社株式を、2027年(平成39年)12月31日までに後継者に一括贈与した場合に、その贈与税の全額を納税猶予する、というものです。なお、この間に相続が発生した場合には、自社株式の評価額に対応する相続税額が納税猶予されます。

と書きましたが、この令和9(2027)年12月31日までに自社株式を一括贈与」という期限は変更されません。

なかなか制度が浸透していない特例事業承継税制ですが、仮に特例承継計画を期限内に提出した後計画通りに事業承継が進まず、2027年12月31日までに贈与が行われなかったとしても特に罰則等はありません。従って現時点で具体的な承継計画がなくても、将来制度を利用する可能性が少しでもあれば、「とりあえず」特例承継計画を提出する、という選択肢もありそうです。



当事務所のクライアントにも、シミュレーションを行った結果、この制度の適用を受けることを前提に特例承継計画の提出を実行したケースがあります。今後5,6年の間に事業承継を考えているオーナー社長は、いま一度制度の適用を検討することをお勧めします。

→カテゴリ:実務編・事業承継税制

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