vol.181(since 07/01/07〜) 

19/07/16



前回まで金庫株について記しましたが、これらはいずれも会社が金庫株を「取得」するケースでした。



では、金庫株を取得した後、会社はその金庫株をどうすればよいのでしょうか?

最も考えられるケースは「何もしない」、つまり「金庫株として保有を続ける」ということです。

社法上、会社が自己株式を保有し続けることについて、特に制限はありません。
また大きなデメリットも見当たりません。そのため非上場会社の場合、金庫株を取得するとそのままにしておく、というのが一般的です。

ところで会社法上はそれでよしとして、他に実務上の注意点はないのでしょうか?
いくつか挙げてみましょう。

1株主の議決権割合が変動する 

自己株式には議決権配当請求権はありません。
よって会社が金庫株を取得する前と後では、他の株主の議決権割合が変動する可能性があります。 


例を挙げましょう。



発行済株式100株、株主はA:70株(議決権割合70%)B:30株(同30%)
このケースで、会社がAの株式20株を自己株式として取得したとします。



そうすると自己株式取得後は、A:50株、B:30株、自己株式:20株
となり、議決権割合はA:62.5%(50株/80株)、B:37.5%(30株/80株)となります。 



これにより、Aの議決権割合は3分の2未満となるため、A単独で特別決議(定款変更、事業譲渡など)を行うことができなくなってしまいます。
自己株式を取得する際は、議決権割合の変動に留意が必要です。



2会計上の表示 



自己株式は会計上、資産(有価証券)ではなく、純資産の部の控除項目(マイナス表示)として取り扱います。 
具体的には、以下のようになります。  



 資本金     10,000,000(払込金額1,000円/株×10,000株) 
   自己株式   △1,000,000(取得価額1,000円/株×  1,000株) 



ところで、上記の場合は1株当たりの払込金額=取得価額(1,000円)となっていますが、必ずしもそうとは限りません。 
自己株式は、通常時価により取得します。そして貸借対照表上、自己株式の価額は取得価額により表示します。



例えば上記の例で、取得時の時価が20,000円/株の場合、純資産の部の表示は以下のようになります。  



 資本金    10,000,000(払込金額1,000円/株×10,000株)  
 自己株式  △20,000,000(取得価額20,000円/株×1,000株)  



自己株式の価額(マイナス)が資本金を上回ってしまいます。
しかしこのようなケースはあり得ることなので、違和感はありますが表示上問題ありません。 
また、自己株式の取得価額を評価替えする必要はありません。



3税務上の取扱 



自己株式を取得・保有する場合、税務上、一定の金額が「資本金等の額」から減算されます。 
そうすると、「資本金等の額」に関連するに項目に影響が生じます。 
主なものは「寄附金の損金算入限度額」で、資本金等の額の減少=損金算入限度額の減少、となります。 



なお以下の項目には、自己株式の取得・保有の影響はありません。



・法人税率(所得金額年800万円以下の金額の税率軽減) 

    資本金の額(1億円基準)で判定するため

・地方税均等割の判定 

    資本金等の額が減算された場合は、資本金の額(+資本準備金の額)で判定するため 

次回は、自己株式を処分した場合の注意点について述べます。

→金庫株(5)に続く

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