vol.214(since 07/01/07〜) 

22/05/11

前回の記事で、



ところで役員が退任する場合、退任するオーナー社長に対し「役員退職金」を支払うのが通常です。
M&Aの場合でも、株主総会の決議を経て、役員退職慰労金規程に基づき支給額を決定・支給することにより、会社は支給額を損金とし(不相当に高額な部分の金額の判定は別途必要)、オーナー社長は退職所得として取り扱うことになります



と書きました。
では「退任するオーナー社長に対し「役員退職金」を支払う」ことは、いつ、誰が決定するのでしょうか?

以前の記事で、

まず、会社が退職した役員に対し退職慰労金を支給するためには株主総会の決議が必要で、これは支給手続きの絶対条件となります。
具体的には、株主総会において「支給金額」「支給時期」「支給方法」を決議し、その金額を「決議日基準」又は「支給日基準」により損金算入することになります。

と書いたとおり、役員退職金の支給を決定するのは「株主総会」であり、具体的には「決議する時の株主」となります。
そうすると、M&Aの場合オーナー社長は通常その所有する株式をすべて譲渡するのですから、株主総会をいつ開催するのか?が重要となります。
以下検討してみましょう。

1 役員退職金支給決議後に、株式を譲渡

オーナー社長が株主であるうちに株主総会を開催し、自身に対する役員退職金の支給を決議します。
その後株式を譲渡しますが、この時点ですでに役員退職金は支給済みであるか、又は法人の債務として確定しているので、オーナー社長はM&Aの対価の一部として既に合意した役員退職金を受け取ることが可能です。

2 株式を譲渡後、役員退職金の支給を決議



株主総会は、M&Aで株式を取得した新株主によって開催されます。よってオーナー社長に役員退職金の支給を決議するのは「旧オーナー社長」ではなく「新株主」となります。
仮にM&Aの交渉において、会社がオーナー社長に役員退職金を支給することを約していたとしても、株式譲渡後はオーナー社長はその決議に加わることはできません。新株主が株主総会役員退職金支給を決議しない、又は支給額や支給方法を約した通りに行わないとも限らず、「旧オーナー社長」は極めて不安定な立場に置かれます。

上記1と2を比べれば、M&Aの譲渡側の立場から見て1の方が妥当な方法であることは明らかですし、譲受側にとっても安定した取引となります。M&Aの実行前に役員退職金をあらかじめ確定させることにより、株式の譲渡価額及びM&Aの対価の総額が定まるからです。

このようにわかりきったことをなぜ敢えて書くのかというと、M&Aの現場では2の手法で行われることが実際にあるからです。
M&A
はそれを業とする仲介業者が間に入って行われることが多いのですが、その場合譲渡契約書等のドラフトは通常仲介業者が用意します。そのドラフトで、役員退職金の支給を条件としているにもかかわらず、その決議や実際の支給は株式譲渡後となっていた、というケースがありました。
当事者間で譲渡契約は有効に成立しているとはいえ、実際に役員退職金支給の段になって誰がどのように手続きを進めるのか、譲渡側、譲受側大変苦慮していました。

M&Aの当事者にとって最大の関心事は「譲渡価額がいくらになるか」であり、具体的な手続きや契約内容は後回しにしがちです。M&A役員退職金を支給する際は、その支給決議のタイミングや支給金額、支給方法がどうなっているか、契約締結前に譲渡契約書を入念に確認するようにしましょう。

→役員退職金の税務(17)に続く

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