持株会社は、本当に事業承継対策となるのか?(4)〜借入による買取B〜

vol.189(since 07/01/07〜) 

20/03/09

 

 

前回の記事では、持株会社を設立し、現事業会社の株式を借入金により買い取る>ケースで、持株会社設立後10年後に相続が発生した場合>の効果を検証しました。
そして、前回の記事で設定した条件下では、持株会社設立の効果が不十分であり、設立することにより逆にオーナーの相続財産が増加してしまいましたと書きました。


 

今回は、この問題を回避する手段を含め、持株会社設立の3つの方法のうち第1の方法持株会社を設立し、現事業会社の株式を借入金により買い取る>の検証結果をまとめます。



1 持株会社の株式を、後継者が出資する


この方法の前提条件として、「Aは持株会社C社を金銭出資により設立します(資本金は1円とします)。AはC社の100%株主となります。」としています。
これにより、C社株式のすべてはAの財産となります。そしてC社株式の評価額が年々上昇すると、Aの相続財産が増加する、という問題に直面します。

 

 

この問題は、AがC社株式を所有しないようにすることによって解決します。つまり、



・持株会社C社設立時にオーナーAが出資せず、後継者Dが全額出資する

                または

・オーナーAが出資設立後、持株会社C社の株価が低い時点で後継者Dに贈与する



ことにより、C社株式の価値増加をAの財産に影響させない、という方法が考えられます。

 

 

これを前回の事例<持株会社設立後10年後に相続が発生した場合>にあてはめると、C社株式を引き受けなかった場合のAの相続財産は現金8200万円のみとなり、持株会社を設立しなかった場合(B社株式15000万円)に比べて大きな低減効果を得ることになります。

 

 

ただし、AはC社株式を所有しなくなった時点で「オーナー」の地位を手放すことになり、以後会社経営には基本的にかかわることができなくなります。
よってこの方法を採用するためには、Aが会社経営から完全に引退することが条件になる、と言えるでしょう。

 

 

2 借入について



このケース<持株会社を設立し、現事業会社の株式を借入金により買い取る>の最大の特徴は、持株会社設立資金を借入金により調達することにあります。
ところで借入金の調達先として、前提条件では「金融機関」としてきましたが、「オーナー」という選択肢もあります。
それぞれの是非を検証してみましょう。



イ 金融機関からの借り入れ

 

 

借入の目的(事業承継資金)に問題はありません。また現在の低金利下の状況では、利息支払額もさほどの負担にはならないものと考えます。



しかしオーナー側からすると、持株会社を設立しなければ借り入れる必要のなかった「外部負債」を負うことになります。
この負債は持株会社C社が負っていますが、C社の収入は事業会社B社からの配当のみです。
B社から見ると、B社はC社が金融機関に返済する元金及び利息に相当する金額の配当を継続する必要があることになります。つまり持株会社C社の借入金の返済原資は事業会社B社の利益であり、この借入金は実質的にはB社の負債と言えます。(なおB社はC社の完全子会社なので、C社が受ける配当はその全額が益金不算入となり、C社は課税所得が生じないどころか毎期運営費相当額の欠損金が生じることが見込まれます)。
B社の業績が順調に推移すれば返済は可能でしょうが、借入金額が事業規模に対して大きすぎるような場合は、B社本来の事業の投資計画に影響を与える恐れがあります。

 


また事業承継のタイミングによっては、この負債を実質的に負うのはオーナーAではなく後継者Dとなります。つまり、オーナーは後継者に負債を負わせたうえで会社を承継することになるのです。
後継者にとっては経営上の重荷となることでしょう。

 


蛇足ですが、このスキーム提案の多くは金融機関が融資先企業の情報を大手税理士法人に提供することにより行われているようです。両者がどのような契約を締結しているかは知りませんが、金融機関及び大手税理士法人それぞれに営業上のメリットがあっての提案であることは当然でしょう(そもそも金融機関が大手税理士法人に企業情報を提供することに関して、融資先企業に対するコンプライアンス上の問題はないのでしょうか)。

 

 

ロ オーナーからの借り入れ



では、借入先を金融機関ではなく、オーナーとした場合はどうでしょうか(オーナーの貸付金原資は、B社株式の売却資金を充てます)。



持株会社C社からすると、「負債を負う」という点では金融機関から借り入れるのと同じです。しかし返済条件や金利負担の有無は任意で定められます。言わば身内からの借入れですから、後継者にとっても気が楽でしょう。
しかしオーナーAは、C社に対して「貸付金」という財産を有することになります。純粋持株会社であるC社は基本的に現金を有しないため、オーナーがC社から貸付金を一時に回収することは不可能です。
オーナーからすると、現金という「最も処分しやすい財産」が、同族会社への貸付金という「最も処分しにくい財産」に転化することになります。

 

 

3 結論



以上3回に渡って、持株会社を設立し、現事業会社の株式を借入金により買い取るケースを検証しました。
この検証で言えることは、この方法で持株会社を設立しても、直ちに株価の引き下げとなるわけではない、ということです。

 

 

このケースでの持株会社設立の効果を端的に言えば、オーナーが持株会社に株式を売却することにより売却時点で株式の価値を確定し、その後の株式価値の増加を抑制することにあります。
今回の事例では、上記1の持株会社の株式を、後継者が出資する」 の方法を採用することによりオーナーの相続税対策効果が表れました。他方、オーナーは持株会社設立以後会社の株主ではなくなり、以後基本的に会社経営にかかわることができなくなります。
またこのケースのデメリットは、株式売却時オーナーに譲渡所得税が課されること、及び持株会社に借入金(金融機関又はオーナー)という負債が発生することです。これらのメリットデメリットを勘案して、スキーム採用の是非を決定することになります。

 

 

 

→持株会社は、本当に事業承継対策となるのか?(5)に続く

 

 

 

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