vol.236(since07/01/07~)
25/02/18
税務署等が行う「調査」には、いわゆる「税務調査(=納税者が提出した申告書に係る申告金額や納税額が法令等に従って計算されているかどうかを調査する)」以外に、「法定監査」というものがあります。
事業者(法人・個人)は通常、年に一回決算申告を行い確定申告書を税務署等に提出しますが、確定申告書以外にも「支払調書(ex.報酬・料金・契約金及び賞金、不動産の使用料等)」「源泉徴収票(ex.給与所得、退職所得)」などの書類を提出します。
「法定監査」とは、税務署に提出すべきこれらの書類が法令通りに提出されているかどうかを確認するために実施されるものです(なお「法定監査」という用語は俗称で、法令上は「税務調査」の一部として位置づけられています)。
ところで確定申告書等と同様、「支払調書」や「源泉徴収票」などにもそれぞれ提出範囲や提出期限が定められています。
しかし確定申告書等を期限内に提出しなかった場合は無申告加算税や延滞税等の付帯税の課税が法定されているのに対し、「支払調書」や「源泉徴収票」などの場合は法定されていません(例えば所得税法上は「1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する」とされていますが、実務上これが適用されるのは相当悪質なケースに限られるでしょう)。
では「法定監査」は、どのような目的で行われるのでしょう?
ひとつは、「源泉徴収漏れ」がないかどうかの確認です。
例えば会社が個人税理士に報酬を支払った場合、報酬の額に応じて源泉徴収をする必要があります。またこの金額が年5万円を超えると税務署に支払調書を提出しなければなりません。
「法定監査」により、支払調書の提出義務のあるなしにかかわらず、源泉徴収をすべき個人から所得税の徴収をしていなかったことがわかり、所得税の追加徴収及び納付を命じられることがあります(もっとも、これは本来源泉所得税の調査で指摘されるべきもので、法定監査で指摘されるのは副次的な効果と言えるでしょう)。
もうひとつの目的が、いわゆる「情報収集」です。
私の経験では、「法定監査」の対象となるのは一定以上の規模の企業に限られています。売上高等の規模が大きな企業であればその取引企業等も膨大な数となり、その提出する「支払調書」「源泉徴収票」も相当の数になります。
ところで、税務署等が法定監査において、企業が提出する「支払調書」等の提出漏れがないかどうかを確認するためには、その「支払調書」等に記載され、提出されたた企業等との取引のみならず、「支払調書」等に記載、提出されていない企業との取引も確認する必要があります。
この確認作業の中で、税務署等が得た取引企業等の各種「情報」が、その取引企業等に対する税務調査の端緒となる可能性がないとは言えません(なお、これは特定の企業に対する税務調査の一環として行われる「反面調査」とは異なります)。
この「情報収集」は厳密に言うと「法定監査」の範ちゅうには入っていません。よって税務署等が法定監査中に法定監査と直接関係のない資料の提出を求めたとしても、企業側には資料を提出する義務はありません。そもそも企業は、取引先の情報をみだりに他人に開示することは商慣習上許されず、それが例え税務署等であっても法令上の根拠なしに情報を提供するのは取引先との信義則にもとる行為となります。
しかし税務署等が求める資料が「法定監査」を実施するうえで直接必要な資料なのか、単なる「情報収集」なのかどうかの判断は容易ではありません。
よって実務上は、税務署等が収集したい具体的な情報を明示してもらったうえで、企業としての方針と提供できる資料の範囲を説明し、協議の上提供可能な範囲内で対応する、ということになると思われます。